The peculiarity of Jazz Trombone

問い:いわゆる「Jazz tromboneの吹き方」というのはありますか?
つまり、吹奏楽の吹き方とは違ったJazz独特の奏法というものを身につけるべきなのでしょうか?

 これは比較的難しい問題ですね。結論からいうと「違う」ともいえるし「同じで結構」ともいえます。

 例えば日本語と英語を喋る場合では、口の形とか舌の動かし方などの発音が少し異なります。我々日本人が英語を新しく憶える場合には日本語にはないL音R音、Thとかそういった発音はおぼえる必要が生じます。

 ジャズトロンボーンの場合(tromboneに限りませんが)、西洋音楽に黒人音楽の要素が色濃くブレンドされているわけで、一つ一つのフレーズの歌い方(アーティキュレーション)はその黒人音楽の分だけ一般的な吹奏楽とは多少異なるところもある。

 そういったJazz特有の「クセ」というのは確かにあります。
しかしこのクセの度合いは演奏家によって千差万別ですし、その「クセ」こそがオリジナリティーの一つの要素であるともいえるわけです。もし、あなたが本気でプロフェッショナルなジャズマンを目指すのであれば、その他人のクセを真似ることに必ずしも拘泥しなくてもよいのではないでしょうか。逆に、「お稽古事」としてのJazzをやろうとしているのなら模倣するべきでしょう。

 一見すると、これは矛盾しているようにも思われますが、Self-madeで皆にかっこいいと思わせる吹き方を探す方が、難しいことだからです。


パワーとスピード

 あなたが未だ成長過程にあるプレイヤーならば、もう一つ憶えていて損はないことがあります。

 ジャズトロンボーンには「パワー」よりも「スピード」を要求される局面が多いということです。

 ジャズではパワーが要らないというわけではないのですが、トロンボーンというのはどちらかというと音量に富んだ楽器ですから、室内で吹く場合は、音量としては他の楽器よりも飽和に達しやすい。他の楽器とのバランスということを考えると、あまり大音量で吹き続けるシチュエーションはないように思えます。

 そして、音量とフレージングのスピードは、ある程度トレードオフの関係にあります。そしてジャズの場合、トロンボーンにとっては音量の限界よりもフレーズの限界の方がいつだって厳しいんです。

 吹奏楽をやってジャズに転向した者が挫折しやすいのはここです。例えば、中学高校と吹奏楽でやってきて上手といわれてきた人間が大学に入ってジャズを始めたとする。しかしBop系の細かいテーマすら吹けない、Ad-libソロのコピーなんか全然吹けない、といったことがまま起こります。これは、必ずしもJazzが難しいというわけではなくて、吹奏楽、オーケストラでトロンボーンにはあまり要求されなかった面を要求されるためだと考えられます。

 ユーノス・ロードスターとスープラの違いとでも考えればよいでしょうか。
 コーナリング重視の車と最高速重視の車ですね。

 曲がりくねったサーキットでは小回りの利くユーノスの方が早いし、運動場のトラックのようなサーキットではスープラの方が圧倒的に早い。

 Jazzという「サーキット」はどちらかというと曲がりくねっているテクニック重視のコースだと私は思います。コード進行という面でもそうですし(アドリブ技法:その2)、フレーズの細かさという点でもそうです。

 やはりジャズ・トロンボーンのアドリブに即応するためには、吹奏楽の平均レベルよりも早いPassageを吹く能力が必要と考えられます。

 このことは「Jazz独特の奏法」とは、ちょっと言えませんが、そういうことも前提に練習した方がよいでしょう。


 念のため付け加えますが、「パワーが要らない」と言っているわけではありません。

 勿論、吹奏楽のトッププレイヤーは十分なスピードを備えていますし、ジャズプレイヤーだってプロミュージシャンは十分なパワーを身につけています。

 F1マシンはコーナリング、スピード共に高い能力を有する、それと同じです。

 ただ、
「コーナリングはいいけど最高速が遅い車」と
「コーナリングはからっきしだめで最高速はばかっぱやい車」
のどちらか、を選ぶのであれば、前者の方がジャズに向いていると僕は理解しています。それに、四五年ちゃんと吹奏楽でトロンボーンをやっていれば自然に音抜けは良くなります。それ以上のパワーは一段階上のレベルに上がるまで当分不必要だと僕は考えています。

 しかし、アマチュアレベルでは、音色は良くて音は大きいけれどもフレーズを吹かせるとさっぱりという人間と、フレーズを吹かせるといいんだけれど、音量に今ひとつ難がある人間では、前者の方が10倍くらい多いのは確かなんですよね。

(June,2006 改稿)