Troubleshooting for Improvisation


 君がもしアドリブができなくて悩んでいるならば、それには多分いろいろな理由があるだろう。

 様々な原因を要素に還元して考えれば、解決法はシンプルに示せるかもしれない。

(1)アドリブを考えだす部分。
(2)考えたアドリブを、うまく楽器に伝える部分。
(3)楽器そのものを弾きこなす技量。

 どの段階で躓きがあるのかわからない場合、それぞれ簡単に判定するベンチマークテストを考えてみました。


(1)アドリブを思いつく

 例えば、ウォークマンなり、なんなりで、自分の好きなジャズのアルバムを聴いてみましょう。自分の楽器と同じ人がソロをとっているのを演奏に合わせて一緒に口ずさんでみましょう。出来ますか?何度か聴けば、できますね。ちょっとくらい音がずれていても気にする必要はありません。もしあなたがボーカリストではないのならば。

 それでは、その人のソロが終わったあと、(もしくは、ソロの半分くらいの時点で、CDを止めてもいいかもしれません)、自分でそのソロの続きを口ずさむことができますか?憶えているソロではなく、今までソロをしていた人の気分になって、同じようにフレーズやメロディーを口ずさめるでしょうか?なんかソロっぽいような鼻歌が口ずさめますか?

 程度の差はあれ、このステップが全くクリア出来ないのであれば、ソロがとれない原因は器楽的な問題ではなく、あなたの頭の中にあるのかもしれません。

 ジャズが好きで好きで入ってきた楽器初心者には、こういうのを結構上手にこなす人が多いのですが、その逆で、ジャズはせいぜい「A列車で行こう」とか「インザムード」しか聴いたことがないといった風なブラバン出身の楽器経験者にやらせてみると、さっぱり出来ないという現象がしばしばみられます。

 ただし、出来ない場合、その手本の演奏者のスタイルが自分のスタイルと著しく合致していないという可能性は念頭に置いておかなければいけません。誰しも自分の好みでないスタイルのアドリブは出来ませんし、プレイスタイルの幅はジャズにおいては他の音楽に比べて甚だしいですから。


(2)アドリブを伝達する

(A)例えばテレビで流れている歌謡曲とか、そういう手近な曲を、口ずさむことは可能ですか?
もしあなたがボーカリストでないのなら、多少細かいところで音を外しても構いません。調性がわかる程度にトレース出来ればいいです。

(B)では、その曲の一節を、半音上げて、もしくは半音下げて口ずさむことは可能ですか?

(C)では、楽器で、その曲のメロディーを再現出来ますか? テレビの歌謡曲とか、そういう手近な曲のメロディーラインをすぐに楽器でトレースできますか?

(D)そして、そのメロディーを半音上げて、もしくは半音下げて楽器で演奏することができますか?

 ここでは、むしろジャズの曲ではなく、童謡とか、簡単な歌謡曲とかそういうものの方がいいでしょう。ビバップの曲やコルトレーンチェンジを多用する曲などは、使用する音が一つの調性に留まらないので、結構難しいです。少なくとも、ベンチマークテストには向いていません。

(A)-(D)まで、特に問題なく出来る人は、この段階を思い悩む必要はないといえます。この種の人は学童期にピアノなりなんらかの音楽教育を施されている人に多いのですが、こういう行為に必要な素養を、脳がフレキシブルな幼少の段階で身につけているからです。逆に言うと、彼ら彼女ら(比率でいうと、女性の方が少し多い様に思います。ピアノを習う男女比の為でしょうか)にとっては、これが出来ない他の人を不思議に思いさえするかもしれません。

 ブラスバンド部におけるトレーニングは、多くを器楽演奏技術の習得にあてられるので、このような素養のトレーニングを要請されることはありません。こうした努力は、多くは個人に帰せられていると思います。ですから、吹奏楽の活動歴と、このような素養は必ずしも相関しません。

 (A)(B)が出来るのに(C)が出来ない場合、頭の中で流れている音を上手く楽器にフィードバック出来ないと考えるべきです。(今ではそれほどではありませんが、僕はもともとこのタイプです)

(A)-(C)ができるけれども(D)ができない場合、移動度に関してやや音感が不完全であると考えるべきでしょう。

 また、あまりに極端に「絶対音感」の人の場合、(A),(C)は完璧に出来るのに、(B)(D)で思わぬ躓きをみせる場合があります。


(3)楽器の技量

 これは、特に説明する必要はありませんね。楽譜に書かれた、もしくは模範演奏のテープをトレースさせてみればいいでしょう。

 このテストのベンチマークとしては、僕はConfirmationが好きです。Boppyなフレージングが出来るかどうかはこれを吹くと大体わかります。また、この曲ではトロンボーンでは実際問題運指が不可能に近く(特にBメロ)、ある程度ごまかす、そのごまかしっぷり(音の呑み方)はアーティキュレーションを量るにも役立ちます。

 また、個人的には自分の跳躍力を判断する時にはFreedom Jazz Danceのテーマを試したりもします。不調の時は上手く吹けません。もっとも、この曲のアドリブは、上手くひけません。どうもマイルス的気分を練り上げる際に、ベタな沈黙部分を自分で作って、その沈黙に照れてしまうんですよね。これは余談でしたが。

 注意しておきたいのは、読譜能力は必ずしも問題にはならないということです。ビッグバンドならともかく、アドリブをする場合、読譜能力は必要ありません。チェットベイカーは譜面が読めませんでした。

 ですから、評価に際しては読譜能力が影響しているかを注意深く観察する必要はあります。

 

 多くの場合「楽器の技量」だけが問題になることはあまりありません。初心者はそれまでの(1)(2)の段階で多くの未成熟さを抱えており、楽器の技量のみが顕在化することはないからです。特殊な例として、ピアノや他の楽器を中程度以上習熟している人間がトロンボーンを新たに始めた場合があてはまるかもしれませんが、ただ、こういうケースはトロンボーンにおいては残念ながら(笑)あまりありません。


結論

 さて、いかがだったでしょうか?自分がアドリブが吹けないと悩んでいる方、上の項目のどこに当てはまりましたでしょうか?

 

 今まであまり楽器の経験自体がない初心者の方は、どちらかというと(2)(3)に問題があるのではないでしょうか?もしあなたが(1)〜(3)すべてにおいて全くよい面を示せない場合は、目標を低く設定し直した方がいいかもしれません。少なくとも音楽をもっと好きになって下さい。楽器の不如意を補えるのは、自分の中から溢れてきてしょうがない内なる音楽だけです。逆に言うと、(1)さえ十分にあれば、こつこつと適切な練習をすれば、きっといいアドリブが出来るようになると思います。

 いろいろなスタイルを試した挙げ句、どんな人の演奏でもさっぱり出来ない場合、そもそもジャズ自体にあまり興味がないのかもしれないし、アドリブという行為自体にも意義が見いだせないのかもしれません。もしくはあなた自身に強烈なオリジナリティーがありすぎて、模倣というものを許さないのかもしれない(ごくまれにこういう人はいます。ですから気を落とす必要はない)。

 

もしあなたが(1)(2)の問題をクリアしているのであれば、あとは楽器の練習だけです。最もソロイストへの道が近いと思います。尤も、物理的な条件というのもありますから、例えば前歯がシンナーで全部溶けているとか、両手がないとか、身長が120cmしかないとかそういう場合は、必ずしもトロンボーンに拘ることはないかもしれませんが。

 

 初心者と違って、吹奏楽やオーケストラの経験があり、楽器の技術をクリアーしている人の場合は、上述とはちょうど逆に当たるのではないかと思います。

(2)(3)をクリアーしているが、(1)が駄目な人。これは、まだ自分の好きな音に出会っていないのかもしれませんし、自分の心の中の音楽の瓶の中にまだ水が一杯にたまっていないのかもしれません。いずれにしろ、問題はあなたの音楽を紡ぎ出そうという頭の中にあります。

 解決策は、ジャズに限らず、いろいろな音楽を聴くこと。但し自分ならどうするかという能動的な心を持って聴くことでしょうか。
 メロディーに心をぴったりと沿わせること。場合によっては一緒に口ずさんでみること。

たとえば読書においても、ただ本を読むのと、自分でも何か書こうと思って他の文を読むのとでは全く読み方が変わってきますね。音楽も多分同じだと思います。

 また、CDだけを聴くのではなく、映像があったほうがいいし、出来ればライブに行く方がよいヒントが得られやすいかもしれませんね。

 

 (2)が駄目な人。
 これは、僕がそうだったので非常に親近感がわきます。
 前回書いた「ブラバン出身者の行く末」で書いた少なからぬ層がここに含まれると思いますが、結論からいいますと、この能力に欠けている人はその能力を何とかしない限り、ソロイングにおいて常に苦杯を嘗めることになります。

 もし、あなたがそうなら、自分にはこういう能力が欠けているということをしっかりと受容することです。残念ながら、あなたは「オールドタイプ」であるというわけです。そこをうやむやにしてむやみに楽器の練習をしたり、「譜面」で難しい曲の練習をすることは、ある種の欺瞞で、問題の解決には結びつきません。でもそういう能力を持っている他の人を羨ましがらないこと。それは生得の才能ではなく、幼い頃あなたが他の楽しいことに費やしていた時間とトレードオフして得られたスキルなのですから。

 重要なのは、今その能力に欠けているからとって、将来的にもその能力の欠如が保証されているわけではないということです。よくいわれる「10歳までに絶対音感を身につけないとその後は音感が身に付かない」という言葉は、私を含むこの種の人々を落胆させますが、実際はそうでもありません。但し、そのためにはそれ専用の練習を必要としますし、通常のブラスバンドの(そしてビッグバンドにも)ルーチン練習にはこういったトレーニングは含まれていない。それは、あなたがあなた独りでやらなければならない類の練習なんです。

 考えを変えること。アドリブは決して選ばれた人間の神との交歓ではありません(※)。あなたがアドリブを今できないのは、小さい頃に算数をちゃんとしていなかった人間が経済学とかを勉強しているようなものなのです。腹くくって、そういう練習をすれば、アドリブ、きっと出来るようになりますよ。

※ 尤も、僕がいっているのはBop-idiomによるVertical chord progressionだとか、限定されたフィールドにおける比較的型のはまったアドリブに関しての話です。いわゆるお稽古事レベルのね。世間を一変させるようなソロに必ず含まれている「デーモニッシュさ」はこういった練習では身に付かないような気がします。

 一応自分自身がこういった過程を乗り越えるにおいてチャレンジした練習方法を参考までに紹介します。→アドリブのためのスケール練習




(2006. May)