基本フレーズ―IIm7-V7編


—スケール練習について その5

—アドリブ技法 その6


この章は、音感習得のためのスケール練習について:その5でもありますが、アドリブ技法:その6を兼ねています。

Index

スケール練習についてアドリブ技法について
 コードの展開と圧縮 (その1)
 ツーファイブ(その2)
 ツーファイブでの吹き方 (その3)
 ツーファイブの吹き方—マイナー、オルタード(その4)
 曲中でのツーファイブの吹き方(その5)
ツーファイブフレーズのバリエーション(その5/その6)

(a)基本のフレーズ
(b)キーチェンジ

の中で、ここでは(a)「基本フレーズ」のバリエーションです。あまりフレーズそのものは紹介していませんけれども。

 同じキーの影響下にあるフレーズでも、トニック的なものとそうでないものがあります。

 例えばハノンの練習などを考えてやると、あれはダイアトニックなフレーズをダイアトニックで動かしているわけですが、小節が変わる毎に、そのフレーズの性格は変わるはずです。

 音感習得が目的ならば分け隔てなく練習すればよいのですが、覚えたフレーズを実際に曲の中で使う場合、トニック的なものとドミナント的なフレーズは使いどころが違います。それらは分けて覚えた方が実践的なんですよ。

 実は基本フレーズのバリエーション(その2)では敢えてそのことに触れていませんでした。3度・4度のメカニカルなフレーズを示した後、ペンタトニックを紹介してそそくさと終わったのはそういうわけです。あそこで取り上げていたのはトニックにて使えるフレーズだけでした。

 アドリブ技法その3:ツーファイブでの吹き方でも触れましたが、トニックと、ドミナント(ツーファイブ)の部分の吹き分けは、簡単に言うとこのようになります(但し、ダイアトニックの話)。

Ⅱm7 - Ⅴ7
キーの音ならなんでもOKトニック
ペンタトニック

 そして、もの凄くぶっちゃけちゃえば、トニックとドミナントの差は「ファ」の音を含んでいるかいないかです。

 もちろんトニック部分で、まったくファの音を使えない、ということはありません。経過音とか、弱勢音として使う場合もあります。しかし、慎重に用いた方がよい音であることは間違いないでしょう。


 まず、このフレーズをみて下さい。

 ええと、軽音とかジャズ研で、先輩が練習しているのを一度くらいは聴いたことがあるかもしれません。割と有名なフレーズですね。

 先に言っておきますけど、このフレーズは曲の中ではあんまり使えません。アクセントなどがあまりバップっぽくないです。いわゆるバップ・フレーズには独特のスピード感がありますが、このフレーズにはそれがない。ゆえにクラシック的に練習してください。バッハ的、ハノン的といいますか、イーブン、ノーアクセントで。

 このフレーズのいいところは、Dm7とG7のコードにぴったり貼り付いたフレーズであることですね。実際これ、フレーズというよりは分散和音、アルペジオなんですね。おまけに、解決が三度の音ですから次のフレーズにつなげやすい。


 まず、手始めにこれやってみて下さい。


  Dm7-G7-Cm7-F7-Bbm7-と四度進行で続けています。ずーっと繋がっている感じで一周することができます。この進行と、もう一つ、Gm7-から始めると、別の円環がもう一つできます。ツーファイブは四度進行ですが、二つで一つセットなので、六つが一揃いになった二つのセットができるんですね。
 あ、先に言っときますけど、下の音が難しいようなら途中でオクターブ上げて結構です。

 勿論、慣れてきたら、半音下行/上行でやってみるのも一興です。この時は、それぞれのフレーズの頭の音は、F→E→Eb→Dと半音ずつ下行する形になります。

 この時に注意することは譜面にしないこと。極力頭の中だけでぐるぐる回すようにしてみて下さい。


 アドリブの際のメルクマール。

 ええと、メルクマールというのは、目印とか指標とか、そんな意味です。

 こういうフレーズを曲の中で使ってやる際には、その場所に適したキーのツーファイブを選ぶ必要があります。その時に、フレーズの起点として何を考えるかという話しです。

 ツーファイブのフレーズは、最初は脊髄反射のようなレベルまで練習しないとあまり使い物になりません。曲の中で瞬時に反応することが必要なわけです。まるで有能な秘書が、書類を取り出すかのように、コードに反応してフレーズをさっと出さなければいけない。

 で、そのツーファイブのきっかけを何におくか。結論から言っちゃうと、ツーファイブフレーズを再現するのに、譜面の上に書かれているコードを頼りにするか、ツーファイブの着地点であるIのキー(トーン)か。左の図でいうと、赤い線で囲っているのが、コード、青い線で囲ったのが、トーン。

 どちらをとっかかりにしたらいいんでしょうか?


 

 このシリーズでは、車を喩えに持ち出すことがおおいわけですが、この問題を車の運転に喩えるならば、コーナーを曲がるとき、コーナリングの目印に、コーナーの入り口使うか、それとも出口のコーナーエンドを目印にするかの違いに似ています。


Ⅱm7

 一番シンプルな考え方は、ツーファイブに差し掛かる入り口に書かれたコードシンボル、つまり、ツーファイブのツーの部分を目印にすることです。

 ツーを起点にする場合の利点は、なんと言っても、フレーズの入りが吹きやすいという事だと思います。記載されているコード通りに吹くということで、非常に自然ですし。

 例えば先ほどの「バッハ的」フレーズは、Dm7の短3度の音から始まります。それに音型もDmの分散そのものです。つまり、Dmと目的のフレーズがほとんど等価で、非常に容易に、Dm7というコードシンボルを見てこのフレーズを導き出すことができる。実際、バップフレーズは、吹き始めがⅡm7のコードトーンであることが多い。

 ジャズのスタンダードの譜面、なんでもいいから開いてみればわかりますが、あちこちにツーファイブが散りばめられていますよね。こういった譜面を前にして瞬間的に反応するためには、片っ端からコードシンボルをフレーズに変換することが求められます。こうした作業には、ツーを目印をすることは非常に効率がよい。

 ただし、このツーを起点に考えすぎる弊害というのはあります。

 確かに「用意された」ツーファイブに反応するためには、ツーを目印にするのが一番効率がいい。しかし、書かれてない「ツー」には反応できない。

 書かれているツーファイブに当てはめていくだけでは、アドリブとはひどく自由度の狭い、偏狭なゲームに過ぎないと、その5:曲中のツーファイブの吹き方で述べました。

 例えば、ツーファイブを自分で建て増すような場合は、建て増されたツーファイブは譜面の上には当然ありません。こういう場合は、着地点から逆算してツーファイブを吹くわけで、ツーを手がかりにしてフレーズを吹くことに慣れきっていると、ちょっと困ったことになります。

 それに対して、着地点のワンを起点に考える場合、現れたコードを次々に処理するというのではなく、着地点を「狙って」ちょっと先を見る、逆算するという視点が必要になります。

 コード進行の流れでみると、この場合、逐次処理という風にはいきませんね。視線は前後へ行ったり来たりするはずです。そういう意味では、例えば初めての曲で、コード進行も見ながらやるような曲には向いていないと言えます。

 ツーを起点の場合に書かれていないツーファイブが吹けないのと同様、ワンを起点として考える場合、ツーファイブ・ワンの解決がないツーファイブへの対応が遅れる。ツー・ファイブときて偽終止で別のコードにいく場合だとか。

 しかし、Iを見据える場合、大きな利点があります。そのツーファイブにおけるトーナリティーが明示的であることです。着地点がBbであれば、ツーファイブはBbのダイアトニックスケールであれば、はまって聞こえますから。

 フレーズというのは、自分の狙った風に吹ければ勿論いいわけですが、結果として頭の中に描いていたフレーズからずれても、トーナルインサイドであれば問題ありません。Iを見据えて吹く場合、トーナリティーがはっきりしていますから、例えフレーズの音型がすべっても、そう間違わない。(些か乱暴な意見ではありますが)

 また、着地点のワンを狙って吹く場合、先ほどのツーで述べた、コード譜に書かれていなツーファイブにも対応できます。

 

 このように、コードの処理という観点からは、ツーを目印にする場合と、ワンを目印にするのでは、随分違いがあると思います。コンピュータ言語でいうと、ツーを目印にするのはインタープリター型、ワンを目印にするのはコンパイル型と言ってもいいかもしれません。

 逆にいうと、ツーでは、トーナリティーが少し見えにくく、ワンではフレーズの入りがちょっと見えにくいということになります。

 しかし、この二つは二者択一すべきものではなくて、吹いている時の頭の中では、この二つは渾然一体としているように思います。例えばCm7-F7をみて、Bbのツーファイブだなということが瞬時に浮かびます。人間の頭の中というのはすっきりと整理されているもんではないですから、どちらかのやり方に専念することは多分できない。むしろ、どちらのアプローチからでもフレーズを引き出せるようになることが必要ではないかと思います。


具体的な練習方法

 具体的にツーファイブをどのように練習するかですが、ゆえに、コードシンボルとツーファイブのルートトーンのいずれにも対応する訓練をしておいた方が実践的です。

 ルートトーンに対応させる場合というのは、今までの練習と同じようにやればいいと思います。ルートキーを書いた紙を前に置いて、練習してもいいでしょう。

C  - Bb  -  Ab  -  Gb  -  E  -  D  - 

 例えば、このように、紙にルートキーを書いたものを前に置いてフレーズを吹いてみる。

 コードシンボルに対応して練習する場合は、実際にそのコードを前に置いて練習してみるといいです。これも、同様に、コードを書いたものを前にフレーズを再現してやるとよい。

|Dm7 G7 | Cm7 F7 | Bbm7 Eb7 | Abm7 Db7 | F#m7 B7 | Em7 A7 | Dm7 G7 |

 上の二つは同じでありまして、これで冒頭挙げた「バッハ的」フレーズを吹くと、冒頭に挙げたこのケーデンスということになります。


 こういうフレーズになればOKということ。

 もちろんこの進行だけじゃなくて、出鱈目に書いたり、曲中で出てくる順番に書いてみたりしてチャレンジしてみてもいいでしょう。とにかく、どんな順番で、どのキーのツーファイブが出現しても、淡々とこなせることです。

 

 さて、肝心のフレーズですが、これは各人の個性に繋がるようなものですから、できれば自分で探すことをおすすめします。手っ取り早く身につけたいなら、二三は必ず教則本に載っているはずですから、何か適当に買ってみてばいいと思う。

 え?どれがいいかわからない?
 しょうがないなー、おうちに本棚がない人は稲森 康利 著『ジャズフレーズハンドブック』(中央アート出版社:ISBN-13: 978-4886396808)をお薦めしておきます。小さくて邪魔にならないからです。(白くて、一部赤い本です。色部分が青紫っぽいツーファイブハンドブックというのもあるんですがこれは僕は持ってないからわからない)。おうちに本棚がある人は、幾つか買って試行錯誤してみればいい(僕は金持ちには冷たいの)。

ファイブは?

 ここまで話してくると、ファイブを目印に吹いたらどうなんだという話にもなるんじゃないかと思います。ツー、ワンを目印にするんなら、当然ファイブを目印にしてフレージングするのも、ありなはずです。

 実際ファイブを目印にするのは結構便利なんです。便利、というか、汎用性があるんですよね。ドミナントとかどうとか考えずに、単純にセブンスコードに対応してフレーズを作っておけば、非常にカバーできる範囲が広い。

 なんといっても、ツーファイブはジャズでしか出てきませんが、セブンスコードはブルースでも、ロックでも、フュージョンでも出てくるわけで、そういうジャンルを超えた強みもある。

 極端なことを言えば、セブンスコードでのフレージングを覚えれば、平行移動すれば、ブルースはなんでもできる。(ブルースはトニックですらセブンスですから)また、ファンク系一発ものやフュージョンを主戦場とするような場合もこうした方法論は非常に有効です。バップでは、ドミナントは、ドミナントモーションを繰り返してどんどん動いていくのが多いですけれども、他のジャンルの曲の多くは、ドミナントはドミナントで、どっしり腰を据えていることが殆どですから。

 管楽器はあまり馴染みがありませんが、主にギタリストが集うようなブルースセッション、みたいなのがありまして、そういうところではいかにもこういう方法論で弾いているんだろうなと思われるソロを散見します。

 ただ、僕がこの方式に対してコメントしにくいのは、単に自分自身がそういうアプローチをとっていないから。

うーん、多分有用なんじゃないかな。



オルタード

 そうそう、言い忘れていました。オルタード系の処理です。

 実践論として、オルタードの引き出し方にも色々ありますが、僕は"とにかくオルタードスケールを覚える"というのはようしません。否定しているわけではなく、単にできない。さすがにFとかBbとかよく使うキーのオルタードスケールは僕も覚えちゃってますが。

 それ以外のアプローチとしては、例えば、

Dm G7 (key in C)

のツーファイブにおいて、

Xが道しるべ: G7のsubstitute chord= Db7
 これは、G7の増4上と考えてもいいし、ツーファイブのIIから半音下(II→Iの経過)と考えてもいい。どちらでも導けます。Db7上でLydian dominant 7thを弾けば、オルタードスケールになります。

IIが道しるべ: Dm7のsubstitute chord =Abm7
 これも、一見難しそうですが、ツーファイブのファイブ=G7の半音上という風に考えれば簡単に導けます。これは稲森康利"ジャズ・フレーズ・ハンドブック" p.42にも載っていました。これもLydian dominant 7thですから、コードシンボルとしてはAbm6としてナチュラルマイナーではなくハーモニックマイナーの音列を弾く。

Iが道しるべ: key in Cの C→F#
 但し、Lydian dominant 7thですからF#→Gで、スケールを作ることになります。

 Altered scaleはただのキーチェンジ、という風にはいかないので、こういう処理が必要ではありますが、いずれにしろ、どの部分をとっかかりにしても代理コードを引き出せる練習はしておいた方がいいかもしれない。

(Jan,2007 初稿)