老人とベッド


—夢 その1



 こんな夢をみた。

 病棟で仕事をしている夢だ。その患者さんは僕が担当している呼吸不全の方だ。もともと肺気腫か何かがあって、呼吸状態はかなり悪い。その方の胸のレントゲン陰影が妙なのだ。定型的な肺炎の浸潤像などではなく、間質影という印象である。とにかく妙な印象であった。
(この患者さんは実際に僕が病棟で診ているおじいさんである)

 もうちょっとしっかり調べてみよう、なんて話を先輩の医師としていたら、気が付くと場面が変わっている。

(この辺り夢なので曖昧なのである)
 おじいさんは相変わらず病棟のベッドの上で粗い息をしているのだが、彼の左半身は解剖されたようにすっぱりと切られているのである。ちょうど肺の真ん中辺りで縦に切れており、赤黒い肺がよく見えている。
(『人体解剖展』を思い出してもらえばよい。人間の断面。専門的なことをいえば、切断面は鎖骨中線のライン上であった。)。
 あれ、てっきりおじいさんは死んだのかと思ったが、よく見ると胸郭はわずかに動いている。切断面には白い穴が所々空いておりこれは気管支の断面だとわかる。そこからシューッという音とともに空気が呼吸にあわせて噴き出している。なぜか吹き出る空気には白い粉が混じっており、ベッドサイドの読書灯の光を受けきらきらと輝いている。


 アア マダ息ヲシテイルンダナ アアヤッテ切ッテ直接調ベテイルノダナ 変ナ陰影ノセイデアアイッテ粉ガ出ルンダロウカ など私はぼんやりと思う。

 傍らにメスを持って調べている専門医(?)がいる。白い手袋をはめただけで無造作に切断面を指でなぞってみたり、フウムと臓器を持って子細に眺めつ唸っている。

 

……何か変だ。

 、とここで思った。だけど、そこで僕が変だと思ったのは、「生きている人間を切断して調べる」ということではなく、「あんなに胸のレントゲンで異常だのに、肺の切断面はほぼ正常じゃないか」という点が納得いかなかったのだ。

そこで目が覚めた。

 改めて考えてみると、変だと思っている僕の思考回路の方がずっと変だ。


 そして、さらに訳がわからないことに、夢の中で僕の患者を切り刻んでいた専門医、どこかで見たことのある顔だと思っていたが、どうみても鳩山邦夫なのであった。


(初稿2002.4.6日記より)