促音便:



 方言は、単語レベルでの違いよりも、もっと些細な違いの方がより一層強い印象を残すことがある。

 以前島根に赴任していた時は土地の方言に面食らった。やや「ずーずー」弁が混じったような言葉遣いで、東北訛りのような印象で、実に聞き取りにくい。言葉に関しては山陰と山陽では画然とした相違がある。

 山陽地方で育った自分からみれば、山一つ越えただけでどうしてここまで違うのかと不思議ではあるのだが、島根県は中国地方であると同時に、上越北陸地方のなれの果て、「裏日本」の最西端と見なすこともできるのだ。

 また、内科の患者対象は中高年で、年寄りになればなるほどより古語に近い方言を喋るのであるからなおさらである。診察では最初とても苦労した。しかし慣れとは恐ろしいもので二年も住んでいると大抵なんとなくは解るようにはなる。

 この前三年ぶりに短期出張した際、頭の中で使われずに仕舞い込まれた知識が復活し、スイッチが入るのが自分でもわかった。案外憶えているものである。すらすらと言葉がわかるのには驚いた。

 僕はここの言葉は嫌いではない。

 
 で、今アルバイトに行っている病院(広島県にある)の話。

 僕は広島出身なので、地元の方言のはずであるが、今まで全く気づかなかったことがあった。

 「えーっと、」って言う時に「つ」を促音便にせず、きちんと発音する。
「えーつと」という感じになる。
そういう言い方をする人がいるのだ。

 外来の看護婦さんでそういう言い方をしている人が居て、最初は方言とは気づかず、ちょっと耳にひっかかるなぁ、ふざけた物言いをする人だなぁと思っていた。なんか、アニメ調に聞こえてしまうのである。

(えーつと、て!!)
 と毎回心の中でツッコミを入れていたんです。しかし患者さんの中にも同じような話し方をする人がちらほらいたので、この看護婦さんがふざけているわけではないことにようやく最近気づいた。

 最近役場の方に所用で立ち寄ったのだが、ここでも「えーつと」と言っていた。「えーつと、こちらの方に捨て印を……(あっ『えーつと』や!)」役場がある地方は呉の辺りであり、病院のある備後地方とは少し離れているのだが、この辺りも『えーつと』圏らしい。

 どの辺りまで『えーつと』は通用するんだろうか。いや通じるのは日本全国通じるだろうけれど。
 全く言葉からして違うような、聞き直したりしないと意味がわからない単語は方言として認識されやすいが、この「えーつと」は意味が通じないことはないので、方言として認識されにくいのではないかと思う。『アホバカ分布図』よりは分布図を作りにくいような気はする。

 ちなみに、原則として促音便を使わない、とかそういうわけではなくて「ちょっと」は「ちょっと」で「ちょつと」ではないし、えーつと、だけなぜか促音便省略なのである。なぜだ。

(初稿Oct,2005)