塩の功罪:



 2000年くらいから「塩」が流行っている。

 オーガニックフードの流行と関連しているのだろうが、カフェとか、レストランとかでも、最近はそういったオーガニックフード、もっといってしまえばスローフード的なものが盛んだ。そういうステレオタイプとして僕が想像するのはぼそりとした素朴な食感のパンと豊かな味のする野菜の料理である。食材の質は当然として、オーガニックをオーガニックたらしめているのは、素朴感のある塩味での表現ということになる。

 複雑玄妙なソースやドレッシングよりも素朴な塩の味の方が素材の味を引き立て、野菜本来の甘み、肉のうまさを引き立ててくれるのだ。勿論そのためには産地の決まった鉱質分を多く含む塩を厳選しているのだけれど。

 だが、ちょっとまて。

 最近、塩の量、多過ぎないか?

 

 例えばいわゆる「スローフード」のひな型は、イタリアの片田舎で普通に「ママン」が作っている家庭料理なわけでしょうけれど、そこで食べる「スローフード」に、こんなに塩分量があるか疑問だ。

 

 基本的に、外食は塩分が多い。
 なぜなら、塩分を増すことが手っ取り早く味を濃くすることができるからです。

 素材の質から調理法からまったく同じ料理が二つあったとしましょう。片方にほんのすこしだけ塩分を増やした方が、味の輪郭が引き締まって、おいしく感じられます。この二つを食べ比べた場合、明らかに塩分が濃い方がおいしく感じられるのです。

 外食産業は僕らのお母さんではありませんから、僕らの健康が塩分増加によって障害されようが関知しません。料理を選んでくれるためなら、なんだってします。同じ原価で、ちょっとだけ塩を増やすだけで評判がそれほど変わってくるなら、塩分を増やす。同業他社よりもほんのすこしだけ。

 全く同レベルの味であれば、「こっちの方がうまい」と、そうなる。そうすると、他社もちょっと味を濃くする。

 それが何年間も続けば、ほんのすこしだけ、も積み重なってきますし、外食産業全体の塩分量が増えるのは当たり前です。ある意味「高いレベル」での勝負が繰り広げられている、といってもいいでしょう。

 

 話をもどしますが、当然のことながら「オーガニックフード」だって、こうした土俵の上に乗らないといけないわけです。

 「塩味」というのを際立たせて、僕らが普段食べている「非オーガニックフード」と同じような「パンチ力」を得るためには、塩をかなり増やさないと、たんにぼそぼそした食事に見えてしまう。だからオーガニックフードは概して塩分量がかなり高くなる。

 百歩譲って、イタリアの片田舎での味と同じとしても、それは太陽かんかん照りのイタリアの戸外で働く肉体労働者のための食事で、発汗で失われた塩分を補うために塩辛いはずだ。肉体労働者にちょうど良い食事はデスクワーカーにとっては塩辛すぎる。そういう意味で、この日本で、こじゃれた店で食する我々にとってはオーガニックフードはむしろ体に悪い、と言っておこう。

 ということをいかにもスローフード的なカフェで思いました。

 もちろん、塩自体に岩塩や天然塩を使ったりしますが、そうした塩には多様なミネラルが含まれていて、NaClの含有量はむしろ純粋な食塩より低いです。逆にいうと、ああいう「塩」に含まれる不純物こそが、スローフード的な味付けにとって不可欠であるといえます。
 

 私は塩分中毒を自認しており、塩辛いものが好きです。

 しかし逆に好きなだけあって、食品の塩分にはかなり敏感な方です。減塩しようという意識が低いだけです。

 これはあくまで印象にすぎませんが、我々の食事の塩分は、十年前と比べたらじわり増加したのではないかと思っています。外食産業の隆盛によって、フランチャイズ系の食品の塩分は、どこも増えている。多分一日量で2gくらい違うのではないかと思います。

 間接的ではありますが、証拠はいくつかあります。
 例えば、吉野家の牛丼。
「つゆダク」という注文方法がありますね。

 私はしたことありませんが、90年代くらいから徐々にこの注文法が市民権を得たと思いますが、あれこそが我々の塩分要求量が増加した証拠なのですよ。

 普通に注文しても味はしっかりついてます。が、他の外食チェーンの平均塩分使用量が増加しているために、我々はあの味では物足りなく感じてしまうようになってしまった。それがために「つゆダク」という注文が生まれたわけです。あれは結局濃い味にしているだけですから。

 もともと決められた味のバランスをくずしてまで我々の舌は塩分を要求している、「つゆダク」とはそういうことです。

 

 この塩分競争に上限があるかどうかはわかりませんが、日本人はもともとかなり塩分を摂取しがちな国民ですので、まだまだ上がりしろがあるかもしれません。平均塩分摂取量は戦後ある時期公衆衛生の努力によって下がりましたが、逆転上昇を続けています。おそらくこのままの傾向が続くと、またかなりのレベルまで上昇し、我々の世代では脳血管障害などの発生率は高くなってしまうのではないかなと私などは思うわけです。


(初稿Apr,2003 May,2007改稿)