ベッドとパンツ


医者の風景学—医者とベッド



 最近研究室の先輩(女性独身)が引っ越しをした。

 その際に家具を買い替えたり、とかくリフォームに余念がない。

 だいたい、医師が引っ越すといえば、異動の際ばたばた慌ただしくするのが殆どで、部屋の雰囲気にゆっくり家具をあわせるなんて、普通できやしないのだが、それゆえにひとたびプライベートに目を向けた時に殺伐とした雰囲気を感じてしまいがちである。

 この方は大学に帰って割に時間が経っていたし、まだ次の異動もないようなので、ゆっくり物件を選び、同じマンション内で間取りの違うところに引っ越しをしたらしい。同時に、今まで雑駁とした家具を整理して、いろいろ家具を買い換えたりする予定のようである。

 服とか、小物とかの購入具合を見ている限り、もともと物欲志向の強い方のようなので、それに火に油を注いでみることにした。簡単に言うと、僕がもっている『Pen』のバックナンバーとか(『中型ソファ特集』とか)、『Elle Deco』のバックナンバーとか、北欧家具のカタログを貸したりしたのだ。二週間もすると、もうとんでもなく注がれた油が類焼していて、愉快なことになっていた。

これがそのライトです(これは自宅のやつ) たとえば、ダイニングライトは、有名なポール・ヘニングセンのやつだ。これって、確か5万とか6万とかするんですよね。たかが照明に。
※しかし、そのおうちへお呼ばれした際に、このPH5を拝見して、やっぱり良かったので、引っ越しの際、僕も同じものを買ってしまいました。


 そのほか、家具の大型購入が目についた。当初から予定はしていたようだが、私が火に油を注いだせいか、すべて高価なものを揃えていらっしゃった。たとえばベッド。マットレス+フレームで、それぞれ約20万と30万の間くらいの買い物。僕も夏にテンピュールのマットレスを買ったりして、それも引き金になっているようだが、それを聞いたラボの技術員の女性は鼻血を出して倒れた(というのは大げさだが、驚いていた)。

 そりゃそうだ。こんなの普通は婚礼家具だもの。

 この先生はしかし自己弁護の論としてこう言うのである。
「ま、しかし人生の三分の一は寝てるわけだから、その時間に対して金をかけることは浪費でもなんでもないわけよ」

 よく布団屋のセールスマンが持ち出すやつですね。

 しかし、そういわれるとどうも拙者の屁理屈の虫が騒ぎ出すのである。

  確かに、人生の三分の一はベッドで、だからベッドに金をかけるのは当然かもしれない。

 じゃあ、たとえばパンツは?

 パンツはほぼ24時間、風呂に入っている時か、排便している時か、※○している時以外は常に着用している。

 おまけに常に直接皮膚と密着している、比較的大切な衣類だ。だから、パンツにはベッド以上に金をかけなければいけないのではないかと思う。なにしろ時間でいうと三倍は違うわけだから。

 もう少し細かいことをいうと、風呂に入る時間と排便時間は皆だいたい共通であるから、パンツを履いている時間を規定するのは、その残りの時間である「※○している時間」である。しょっちゅう※○をしている人は、全然※○をしない人にくらべたらパンツを履く時間が少ないわけだ。



 では、時間が少ないのだから、掛けるお金も少ないのか?
 現実はむしろ逆である。

 しょっちゅう※○をしている人(たとえばAV男優とか、風俗嬢とか)の方が、全然※○をしない人(男子校の高校生とか、修道女とか)に比べたらパンツ(もしくはパンティ。パンティて。)にはデザインとか素材とか、気を遣っているし、金額的にもはるかに高いものをはいているではないか。

 なら、金額と時間はこの場合、むしろ負の相関関係にある。

 ね?三分の一過ごすからって、沢山時間を過ごすからといって、布団に金を掛けるのはおかしくないですか?



「……」
(勝った……)
「だいたいねー、先生。一日の三分の一寝てる医者が、どこにいますか!?」
「アホやな。だから医者のベッドは風俗嬢のパンツと同じなの!」
「あっ」

(2004 Sep初稿)