Sori Yanagi

—白磁の醤油差し



 ええと、学生の時は朴念仁だったわけですが、社会人になり、可処分所得が増えますと、色々物欲的なものにも目がいくようになりまして、いつの間にか、インテリア"オタク"とでもいうような状態になりました。

 多分、普通は服とかにお金が行くんだと思うけれども、社会人になって太ってしまったので、あまり高い服に消費欲が向かなかったというのもある。正直言って。

 そうなると、やらしい話ですけれども、家の中の色々な物が段々グレードアップしていくわけですよ。ボールペンが万年筆に、とか、どうでもいいようなライトが、ちょっといいブランドもののライトに、だとか。無駄に高級なふとんとか、バスタオルとか。

 ま、そんなこんなで、たとえば食器とか、そういうものもちょっといいものがないか、とか探してしまうわけです。社会人になったら、忙しいのでほとんど自炊なんかしやしないのに。

 馬鹿みたいな話ですが、大して使いもしないのに、柳宗理のカトラリーセットなども買ったりもしました(しかも、良くあるステンレスのじゃなく、柄のところが黒檀の高いやつ)。ま、これは一生ものなので、無駄にはなりませんけれども。

Brutus特別編集 2003刊行、とのこと。

 で、数年前に、柳宗理の特集本が出たんですが(→)、その本の巻末には、柳宗理プロダクト一覧のようなものが出ていました。

 そこにある"白磁の醤油差し"に、すごく惹かれたんですね。

白磁の醤油差し 柳宗理作

 まるで岡本太郎アートに出てくる抽象化された人形のようななまめかしい曲線!
 これ買う!
 絶対買う!
 とか思っていたわけです。

 これが、2003年くらいの話。

 

 ところが、ない。どこに行ってもない。

 ネット通販、たとえば楽天などで柳宗理デザインのものを検索すると、2000件ほどもヒットする時代なんですが、この醤油差しはやっぱり出てこないんです。柳宗理が作った醤油差しにはもう一種類あって、それは、結び紋/丸紋の付いた、この醤油差しなんですが、これは、そこそこ見かけます。しかしこれはデザイン的にそれほどドキドキしませんのや。そうでしょう?

 別にすべてのキッチン用品を柳宗理で揃える事が目標なわけじゃないんだ。

 ネットでも、実物の店でも、この醤油差しはなく、僕は泣き濡れて蟹と戯れていたのでした。

 

 先週東京に家具を買いに行くという、これまた馬鹿なことをしました(二度目)。その時にたまたま立ち寄った店に、これが飾ってあったわけです。

 ……実に5年目の出会い。

 5年も経つと、もう随分状況も変わっていて、たとえばこの本を買った頃この醤油さしいいよねいいよな、的な会話をしていた彼女とも別れたりしているわけです。

 去年のMonomagazine傑作品の特集号で、柳宗理のケトルを買ったけど、彼女にはふられた編集者の話が載っていましたが、うんうんそうだよね。この編集子と違って、別に僕は不幸ではないですけれども、ま、人は去るけどモノは残る。そういうことです。

 

 ちなみに買ったのは、新宿パークタワーのOzoneの"にっぽんなんとか"とかいう店です。結構な数のインテリアショップを今まで見て回りましたが、店頭で見たのは多分今回が初めてだと思う。欲しい人は是非行ってください。

 しかし、こうやって5年も探し続けたから、脊髄反射的に即買いしたものの、これ、¥3000。醤油差しに三千円っていうのもちょっと引くよなあと思ったりもする。

 

 ところで、一つ疑問があるわけで。

 これだけ柳デザインが再評価されている時代に、この醤油差しは、なぜ復刻されないんでしょうか。

 柳デザインは基本的には人間工学的に考え抜かれている、優れたデザインなわけですが、それでも幾つかのプロダクトで、デザイン先行と言わざるを得ないものもあります。例えば、バタフライスツールだって、そんなに座り心地がいい椅子ではない。

 ひょっとして、この醤油差し、案外使い勝手が悪いのか?
 あり得るよなあ。
 そうでなければ、定番になるよなあ。

 勿体なくて、まだ使ってないわけですけれども、実際のところどうなのか、ちょっとドキドキしています。単に、技術的に難しいから大量生産ができないとかであってほしい。

(Jan,2007初稿)