半熟幸朗師匠、初登場



 ……では師匠よろしくお願いします。


 「まあみなさん、聞いてください。」

「最近健康ブームいうらしいですな。自分の体を大事にしましょういうことで、やれ健康診断やら人間ドックやらがさかんになっとります。まぁ、昔のモーレツモーレツいうとった時分よりみな金持ちで、死んだら困るんでっしゃろな。

 そういうわけでワシらの病院にも健康診断の人がようけ来てくれはります。ワシは消化器の担当で胃カメラやら胃のバリウムやらを担当しとんやけど、このバリウムが問題ですねん。

 正直に言いますけど、バリウムいうもんは美味しいもんやおまへん。べたーっとして重たくってあんなもん好んでのむやつがおるわけない。考えてみぃ。美味しいもんやったら新地に一軒くらいバリウム料理の店が開いてまっせ。ま、検査やからワシらもムリムリ飲んでもらっとるわけです。ごまかすために人工の味をつけて飲みやすうはしとるんやけど、その化学的な味がますます好かん。確かにあれは飲めたもんやない。

 せやけど、またこれ飲むときにごっつういやな顔をしよる奴がおる。一口飲んだときに、顔をしかめてこっちを向いてアピールしよる。それはまだええんです、確かにまずいですから。けど我慢ならんのが、「じゃあコップの中の残りのバリウムを全部飲んだってください」言うたときに、「え?全部ですか?」って聞き返す奴や。

 飽食の時代とよう言うた。最近の日本人は軟弱になってわしゃ情けない。コラ患者!全部や、いうとるやないかい。よう考えてみい。そのコップの中のバリウム仮に残したとしてそのバリウム何につかえるっちゅうんやええ?コラ!残りはまた他の人のコップに継ぎ足して使うっちゅうんかい!コップの中のバリウムはお前さん用に用意しとるんや、残さず飲めや!ワシの若い頃には甲種合格逃れで醤油一気のみなんてザラやった。バリウムなんか飲んでも熱でえへんやないか。

 だいたい体の中にあって普通じゃ見えん部分を無理矢理見るんやからしんどいことするにきまっとるやないか。あんたがヒトデのような棘皮動物で消化するときに胃を体内に出すんやったら話は別やけどな。こっちもまずいのはわかっとんねん!オドレが胃見て欲しいからバリウム飲んでもらっとんちゃうんかい!責任者でてこーい!!!!」

「そんなこというてあんたホンマに出てきたらどないすんの!」


「でてきたらええがな。ホンマのこというとワシも責任者が出てくるのをさっきから待ち焦がれとるんや。」

「どういうこと?」


「胃透視だけに、出てくるのが

 胃 透 視

 い…」


「どうでもいいけど、患者さん誘導するマイク、スイッチ入ったままやで。」

「あっ

 … それでは、回れ右をしてお腹を台につけてください。台が倒れてゆきますよ……」


 付き人の半熟としては、いやいや飲む人よりも、さぞうまそうにごくごく飲む人の方が怖かったりしますが…