Moon Walking..



 すでにおわかりだと思うが、僕には引きこもり傾向がある。ま、完全に家から出ないわけじゃなくて、外には行くのだけれど人との間に隔たりを作ってしまうタイプなのだ。

 そして、空想癖がある。

 一人でぼんやりとぐるぐると色々なことを頭の中でめぐらす。
 何が面白いかな、と勝手に考える。

 勿論、一人勝手に考えたことなので、独りよがりである。


 最近、凝っているのが二つある。

 一つは、赤ずきんちゃん。

 狼がおばあさんの家に先回りしておばあさんになりすましベッドに潜り込む。赤ずきんちゃんが訪ねてきておばあさんとやりとりをする。そのなかの台詞

それは、お前を食べるためだよ

 を、「「おばあさんのまね」をする狼のまね」で言う。まるで、子供に絵本を読み聞かせるようにだ。君も一度やってみよう。

 もうちょっと細かく言うと、横山ホットブラザーズの持ち芸、ノコギリで「お〜ま〜え〜は〜〜あ〜ほ〜か〜」のようなイメージで声を出せばよい。
 たっぷりゆったりと、裏声で演じてみたまえ。
 とても落ち込んだときなどに効果的だ。

 落ち込んでいなくても、とにかくマネしてみたまえ。

 もう一つは、月面歩行(※)。

 もちろん実際に月面歩行をしたことない私であるが、月は地球の重力の6分の1。ゆっくりゆらゆらとスローモーションのように半分浮いた気分で歩く。一人無線応答などを交えると尚更面白い。死にたい時などにちょっと効果的だ。カッターで頸動脈を切るつもりなら、手首にしとこうと思い直す程度の効果はある。

 まぁ、『アメリ』なみの不思議さんのように見えるが、私はいたって正気である。きっと面白がっているのはそういうことを一人でやっている私を見ている「メタ私」ではないだろうか。
 
 どこに行く用事かは忘れたが、ある日車を走らせていた。
 橋のたもとの交差点、夕方で道は混雑している。
 すぐ横の歩道を 高校生の男女のカップルが自転車で並んで走っていた。
 染めていない髪といじっていない制服。冗談を言ったりしているのか、男子は女子の制服の袖をひっぱろうとし、笑ってそれをよける彼女。スカートのプリーツが揺れる。
 青春だ。

 男子校であった自分にはそのような昔はないのだが、なんだか甘酸っぱい、いい気分になって、わけもなくハンドルを人差し指でとんとんとんと叩き、クスリと笑う私。

 信号が変わり、のろのろと車の列が進む。少し進むとすぐ前に先ほどの高校生が居たのだが、我が目を疑う。


 急に二人は前を向き、動きがゆっくりになる。肩に力が入る。
 立ち漕ぎをしているのに、ゆっくりゆらゆらと上半身が揺れている。

 スローモーション。




 !!!

 月面歩行だ……。

 なぜ、彼らが………。





 と思ったら、なんのことはない、坂にさしかかり、自転車を漕いでいるだけだった。




※この月面歩行、どこから出てきたものか長らくわかっていなかったのですが、ラーメンズのコントの中でやってました。
 勿論こんなナンセンス体感芸をするのは片桐仁です。
(初稿May. 2003)