国家試験体験記(その7)

さて、最後にD問題について。

予想を裏切って、今年のD問題は総じて易しかったといえる。40点以上を得点することは例年よりは容易であった。

但し、疑惑のD28、D21を除いては。

94-D21
 2ヶ月の母乳栄養児。出生体重3,300g。排便回数が多く、下痢気味 であることを主訴に来院した。来院時体重5,500g、一回の哺乳時間 10〜15分、哺乳回数は1日6回。さ湯30mlを1日2回与えている。 便の回数は1日4,5回であり、便には粘液が混じり、やや水様である。機嫌は良好で、あやすと笑うが、まだ首は坐っていない。
 この乳児について正しいのはどれか。
a 母乳不足がある。
b 発達の遅れがある。
c 果汁を与えるよう指導する。
d 便培養を行う。
e 止痢薬を処方する。

94-D28
 55歳の女性。動悸と呼吸困難を主訴に来院した。5年前に僧帽弁置換術を受けている。現在ジギタリス、フロセマイドおよびワーファリンの投薬を 受けている。術後の代的な心電図と(別冊No.2A)と来院時の心電図(別冊 No.2B)とを別に示す。
 この患者に静脈投与で用いる治療薬はどれか。
 a トロンビン
 b アトロピン
 c アミノフィリン
 d 塩化カリウム
 e プロカインアミド
まず、D21果汁問題。これは殆ど同じ問題が予備校の模試で出ており、その時は果汁を選ぶものはきわめて少なく(受験者の20%以下だったと思う)不適切問題と評価されている。
 それが、本番でも出ていたのだ。混乱をよばないわけがない。

さて、このD28問題、様々な隘路があり、非常に解きにくくなっている。
 病歴とECG所見で迷わされるのだ。

フロセミド+ジギタリス長期投与中の患者という病歴からは低カリウム血症によるジギタリス中毒という可能性が強く示唆される。

 そして、心電図だが、術後、来院時ともにV1誘導のみ示されている。術後はNormal sinus rhythm。今回来院時は典型的なAf patternを示している。しかし、R-Rにして4-5回分しかなく、その間隔も17-13-13-13-14マスで、ちょっと微妙な感じなのである。
『Afであることはわかるのだが、誘導が少ないので、「Af以外の所見が無い」とはちょっと、言えない。』
例えば、低K。低Kの所見はないだろうか…。…いや、どうやらなさそうだぞ。いや、どうかな。(第一、誘導一つで低Kを診断なんて無茶な話。)

考え方その1考え方その2
僧帽弁置換術の既往のある患者で心房負荷の故に心房細動になるのはいかにもありそうだ。この場合、cardioversionかrate controlを行うべきだと思うが、digitalization中なのでcardioversionは駄目(選択肢にもないし。)この選択肢の中ではプロカインアミドしかないよなぁ…。 だが、フロセミド→(低K)→ジギタリス中毒。という可能性はどうか。
ジギタリス中毒はPAT with blockなどが有名だが、あらゆる不整脈を起こしうる。勿論、Afもありうる。だが、その可能性は比較的低い。一応念頭に置いてCCUに入院させ、カリウム、ジギタリス濃度のモニタリングを行いたい。
(単なる)心房細動と診断→プロカインアミド。
d.カリウムは無意味。digitalization中の患者に於いてK濃度を徒に変動させるのは悪影響であり、相対禁忌といわれても仕方がない。
低Kによるジギ中→K投与は妥当。但し経口が望ましい。が点滴なら大丈夫(勿論bolusは禁忌)。
プロカインアミドは絶対禁忌とは言えないが、あまり良くないだろう。

そして「静脈内投与」という言葉だ。
こればbolus(one shot)を表しているのか、それとも点滴などを表しているのか、非常に解釈が難しい。
とくに試験場での異様な緊張感のもとでは。
もし、これが静脈内注射を表しているのなら、カリウムは禁忌、禁忌も禁忌、大禁忌だ。drip infusionにしてもカリウムは経口投与が第一選択のはず。しかし、プロカインアミドも経口が第一選択だろう。

私はeを選んだ。もし、低カリ→ジギ中→Af だとするとジギ中→Afはatypicalだし、two-stepの思考を要求されるので、それもあまり国試向けではないと考えたからだ。国試的には画像とhistoryがもうちょっとぴったり噛み合う問題が好まれる。ECGだけだったら簡単なのだが。

(ちなみに予備校などでは正解=e で閣ね一致しているようである|)
どちらにしろ、
カリウム濃度を測定する前にカリウムの静脈投与を選択すべきではないし、
プロカインアミドにしたって、(もし居れば)循環器のDrに一声かけてから投与すると思う。弁置換術術後の患者で軽々と対症的にGeneral physicianが不整脈薬を入れて良いかどうか。

それにしても、みんなたっぷりこの問題には悩まされたようだ。
僕も試験場でたっぷり15分は悩みました。
仮に受験生全国10000人弱。この問題に、一人平均10分悩んだとしたら、 述べ約1500時間。この、冷や汗たらたらな濃密な時間が存在したということになる。

そう思うと、逆説的ながらこのD-28問題は良い問題だったのではないか。
資格試験という性格、不合格者の経済的・時間的損失を考えると、徒に人を惑わす問題を出すな!とも思うが、これだけ印象に残った問題もなかったのではないでしょうか。(おそらく不適切問題であろうが。。)

逆に「果汁」の問題は本来なら同じくらい悩むべきレベルの問題であろうが、「数の暴力」を考えて、即答で果汁にして、あとは捨て置く事にしました。

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