Drill Sergeant —鬼軍曹


研修戦線  その2

 研修医は下級将校のようなものだと前回、書いた。

 研修医とはいえ、一応医学部を出て試験にも受かっている。医学に関しては相当勉強しているのだが、いかんせん実績がない。実戦経験がないのは致命的なのである。

 そこで、実地で戦い方を覚えてゆくわけ。

 ただ、医師が戦いの場において果たさなければならない役割とはあくまで『コマンダー』、つまり指揮官なのである。いくら、新米で実戦経験がないとはいえ、『コマンダー』としてチームを統率しなければならないのである。

 (ここでいう『チーム』とは、主治医をリーダーとし、看護師さん、薬剤師さん、検査技師さんなどパラメディカルの集合体を指す。)

 と、いうわけで、新米将校として研修医は指揮をとるのであるが、勿論常に迅速で適切な指示がだせるわけではない。医学教育は受けているので、時間をかければ大抵正しい結論へ到達することが出来るが、「迅速」さ、というところに問題があるのだ。そして医療という戦場では往々にして迅速さが決め手になるのだ。遅巧より拙速を尊ぶべし。

 隊長!ポイント05、二時方向より一個中隊の攻撃です!

 わかった!ちょっとまってろ!

 ………

 よーし、第二小隊はこのまま前進しながら応戦、第三小隊はB地点まで微速前進しながら第二小隊を援護、第一小隊はD地点まで速やかに移動、30分以内に目標到達、その後D地点から要撃を行う!

 了解!!了解!!了解!!

 あっちょっとまって、やっぱり第一小隊がそのまま前進で、第二小隊はF地点まで行って。それともG地点を経由してD地点へ移動だ!

 ………

 どうかなぁ…、やっぱり第二小隊もここに留まる。それともA地点まで後退?それとも第一小隊と一緒に展開して攻撃を厚くするか…

 ………

 ………

 ………よーし、決まった! あれ?みんなどこ?

 みんなサンダース軍曹の指示でDポイントに行っちゃいましたよ。

 と、まぁ、実践慣れしたサンダース軍曹のお陰でなんとか敵の攻撃をくぐりぬけるわけなんだけど。

 新米隊長としてはちょっと面白くないが、なにより結果優先。こういう歴戦の古参兵に最初のうちは何度も助けてもらうことになる。

 看護婦さんを一般兵卒(ノンキャリア)、医師を下士官(キャリア)と喩えたわけである。看護婦さんには面白くなかろうが、実際の現場としてはあながち間違ってはいないだろうと思う。(そうあるべきだ、とは言っていない)

 で、やはり古参兵、というか看護師さんの中にも色々なタイプがいる。

 どうしよう?と不安になった新米隊長に対して、『我々は指示を待っていますから。まだなんですか?わからないの?はン、こんな人が私たちの指示をするなんてね!』と、鼻で笑って一蹴するタイプ。新米隊長のプライドはずたずたで、そういう恨みはなかなか消えない。医者が奴隷のように働かされる大学病院の年配のナースにはこの手のタイプが多いと、一応申し上げておきましょう。

 そうかと思えば、隊長の不安を察してそれとなく適切な助言をしてくれるタイプ。大抵そういう人は年配のナースだったりするわけなんだけど、新米隊長にとってはまさに『白衣の天使』に見えてしまうものなんですよね。研修の初期段階で受けたこういった恩はありがたいもので、その人には一生頭が上がりません。


 とまぁ、こんな風に新米将校、もとい研修医は戦場での生き方を学んでゆくわけで、そういった過去恥部を持ちながら、みんな一人前になってゆくのである。



 (2003.2初稿)