日本「醫」事新報


—本について


 日本医事新報という雑誌がある。あるったらあるんです。

 この雑誌はかなり歴史のある医療関係の週刊誌です。

 一体誰が買っているのか、どこの医局でも置いてあり、非常に普及率が高い、この雑誌(あ、そういえば今のバイト先にはないな)ですが、週刊であること、全科を網羅的な点からいって、おそらく日本で一番読まれている医学商業誌ではないかと思うわけです。

 いわば、日本版のNew England Journal of Medicineと言えないこともない。NEJMと比べて足りないのは質の高い論文だけです。

 殆どの医学系雑誌は、いわゆる論文を載せるのにちょうどよいためか、横書き形式であるのに対して、この雑誌は、縦書きなんです。いわゆる、普通の一般の週刊誌や新聞記事と同様の体裁をしているわけですが、この体裁のために、科学雑誌という雰囲気よりも、文芸誌に近い雰囲気があります。

 実際に退役間近の医師が書くエッセイのようなものや、紀行文、時には詩や俳句などのコーナーもある、まことに盛りだくさんな雑誌であります。医学的な記事も、縦書きだと、なんか横書きの一般の学術雑誌と読み味が変わるから不思議です。横のものを縦にするだけでこれほどまでに違うのかと思う。

 ところで、この医事新報、この4月で大きく様変わりをしました。

 表紙を初めとして、紙面のデザインなどが大刷新されたんですね。

  

 一目瞭然、左の方が新しいやつで、右のが今までのやつです。

 今までの雑誌は「醫」の字が示すように、いかにもいかめしい印象でした。ちなみに醫は医の旧字体ですが、どうしてもこの字だと無意識に心の中で[wi]みたいな発音で読んでしまう。日本うぃじ新報。


 ただ、僕はこの雑誌の持つそういう古びた感じが好きだったんです。紙も光沢紙ではなく、普通のざらざらのあまり良くない紙、そう大衆紙と同じような。古色たる雰囲気があった。

 しかしそのレイアウトが四月から変わってしまったわけです。タイトルの旧字体は変わり、ご覧の通り少し体裁が新しくはなりました。とはいえ変革は中途半端です。たとえば表紙の紙質は相変わらずのざら紙ですし、中途半端にこぎれいにすると逆に貧乏くさいようにも思われ、残念であります。


 ちなみに紙面の方も、十年一日代わり映えがしなかった「医事新報的予定調和空間」が少し変わって、まだ上手く馴染めません。

 雑誌の後ろの方についていた「Q&A」コーナーもその一つです。これは医事新報の隠れた名コーナーだったんですが、基本的には医学的なQ&Aで、臨床現場で浮かんだ素朴な疑問を質問し、専門の方が答える。

 但し、最後の方に「雑件」という欄があるんですが、これが異彩をはなっていた。要するになんでもQ&Aなんですけど、たとえば「イカの寿命はどのくらいか」とか、そういう日常でふと思った疑問とか、日露戦争の軍史とかの細かい部分の疑問とか(投稿子の趣味なんだろうけど)、マニアックな分野から重箱の隅をつつくような質問などが寄せられ、それに対して、どんな分野でも、きっちりその道の専門家が回答していた。「人力検索はてな」というものが今はネットにはありますが、それよりも強力な問題解決能力があった。編集部が持っているこういう情報ルートが空恐ろしくなるくらい。

 一応メジャー誌なんですけれども、得体の知れないマニアックな匂いがする、異常な空間で、僕はそこが好きだったんですが、その「雑件」欄、四月の紙面刷新から、あきらかに質問のマニアック度が「薄く」なってしまっているんですよね。一見すると同じなんだけど、明らかに何かが違う。質的に劣っています。僕としては担当者が変わってしまったんじゃないかなぁと危惧しているわけです。

(Jun,2006 初稿)